オウム真理教に迫るノンフィクション『A3』無料公開!作者は映画監督で作家の森達也氏
(画像はnoteより引用)
映画監督・作家の森達也さんが、自著「A3」をコンテンツプラットフォーム・noteで無料公開した。リンクはこちら。
『A3』無料公開にあたって|森達也(映画監督・作家)|note
森氏の紹介記事を書いてから読もうと思っていたのだが、うっかり読み始めてしまったがために止まれなくなり、上巻を読みきってしまった。
今も、少し酔ったような感じがする。登場人物のひとりひとりが、あまりに生々しくて。
公開された『A3』とは
今回、森氏自らが無料公開してくれた『A3』は、オウム真理教(現アレフ)の姿を描いた2本のドキュメンタリー映画『A』と『A2』の続編だ。
執筆は2010年。翌年には、第33回講談社ノンフィクション賞を受賞している。
それほどの作品を、なぜ、無料で公開したのだろうか。
森氏はTwitterで、このように話している。
『なぜオウムはサリンを撒いたのか。麻原は何を考えていたのか。何をしたかったのか。オウム裁判の最大の問題点は何か。知ってほしいし気づいてほしい。その思いで『A3』無料公開します。まだレイアウト不完全な箇所があるけれど、一人でも多くの人に読んでほしいから。』
(森達也(映画監督・作家)@MoriTatsuyaInfo
·2019年1月24日 より)
森氏は、売名が必要な程度の作家ではない。
オウム真理教を扱ったドキュメンタリー映画『A』『A2』の他に、ゴーストライター問題で話題となった音楽家・佐村河内守氏のドキュメンタリー映画『FAKE』、国鉄の下山定則総裁が死亡した事件を扱った書籍『下山事件(シモヤマ・ケース)』など、綿密な取材に基づいた、生々しい作品を発表し続けているような人だ。
ただ、なぜ今、という疑問はあった。だが、その答えも、noteの冒頭にあった。
『A3』無料公開にあたって(全文)
僕の肩書のひとつは作家だ。つまり書くことで生計を得ている。本来ならギャランティのない仕事は受けるべきではない。プライドや矜持のレベルではない。他の仕事との整合性がつかなくなるのだ。
でも、特にオウムについては、昨年の13人死刑執行も含めて、世に問いたいこと、言いたいこと、伝えたいことが、ずっと自身の内側で飽和している。溢れかけている。そして僕のこの思いや葛藤や発見を伝えるうえで、『A3』は最も重要な作品だ。初対面の人すべてと名刺交換をしながら、「A3は読んでくれましたか」と僕は質問したい。でもさすがにすべての人に訊くことはできない。オウム関連のインタビューなどを申し込まれたときは、時おり思いきって質問する。読んでいますと答えられることは、たぶん三回に一回くらい。そのたびに(上辺はそうですかなどと言いながら)気落ちする。一人でも多くの人に読んでほしい。もっと多くの人に知ってほしい。もっともっと気づいてほしい。
刊行から十年以上が過ぎるけれど、その思いは強くなるばかりだ。だから『A3』単行本を担当した集英社インターナショナルの高田功と、文庫本の担当である集英社の中山哲史に相談した。現在も版を重ねているのに無料公開など前例がないし、版元としても了解できるはずがない。そう答えられることは半ば覚悟していたが、二人は快諾してくれた。
印刷所に保管されていたデータを二人の編集者経由で送ってもらい、レイアウトは僕の公式ウェブサイトの管理人で、長い友人でもある宮澤宣圭が引き受けてくれた。文庫本で解説を書いてくれた斉藤美奈子も、全文掲載を即答で了解してくれた。最後の課題は、月刊PLAYBOY連載時には、毎回掲載されていたイラストだ。書籍化の際には(カバーなど数点のイラストは別にして)ほぼ割愛されたが、できることならすべてのイラストを復活させたかった。でも無料公開は僕のわがままだ。無報酬を他の作家に強要できない。
結論から書けば、イラストレイターの山本重也は僕の依頼を、「イラストが少しでも力になれば嬉しいです」と、やっぱり快諾してくれた。
こうして多くの方々の応援と理解で、この無料掲載が実現できた。そもそもネット弱者なので、一人では何もできなかった。多くの人に無理を言った。我を押し通した。それほどに読んでほしい。知ってほしい。気づいてほしい。麻原はもう処刑されたけれど、今からでも遅すぎることは絶対にない。
僕の転機はオウムだ。地下鉄サリン事件をきっかけに映画を撮り、本を書き、そして今がある。でも興味の焦点は、実はオウムそのものではなく、オウムによって激しく変化した日本社会だ。そしてその変化は、今もまだ続いている。むしろ加速している。
だから間に合う。まだ間に合う。遅すぎることは絶対にない。事件は地続きで今に続いている。読んでほしい。知ってほしい。気づいてほしい。その思いで公開します。
(森達也(映画監督・作家)2019/01/23 00:17)
無理を通してまで無料公開に踏み切った理由は、読めばわかる。
ただし、読み始めたら止まらない。日曜の夜に読み始めてはいけない類の作品だ。もし読むのなら、今からをお勧めする。